らーめん香月(六本木)

 東京で古くから愛されているラーメンの一つに「背脂チャッチャ系」がある。1975年に屋台で始まった「らーめん香月」は、その草分け的存在。その系譜を辿れば、元は戦前の屋台「貧乏軒」にまで行き着くが、その後の「ホープ軒」の流れを汲んだ背脂チャッチャ系の正統派である。恵比寿での開業は1984年だが、ここ最近になって休業や移転など紆余曲折があり、2013年には暖簾を畳んでしまっていたが、2016年六本木の地に再度復活を果たし、今は池尻大橋や高田馬場にも出店を重ねている。

 頂いたのは当然「醤油らーめん」(850円)。広い口の丼いっぱいに敷き詰められたきめ細かな背脂はまるで雪のよう。同じ背脂系の老舗、弁慶が荒々しいワイルドな背脂であるのに対して、香月の背脂は繊細で綺麗だ。あっさりさっぱりとしたラーメンが主流だった時代、背脂を加えることでスープにコクを与えたのは画期的だったろう。さらに客の好みを聞くことで背脂の量を増減したり、好みの具を選ばせるといったスタイルは、その後多くのラーメン店に導入された。

 思いのほか細く加水率の低いストレート麺も、当時の中華麺ともホープ軒などの他の背脂系の店とも異なっていた。ザクッとした心地よい食感が九州ラーメンの麺に近く感じるのは、創業者の穴見氏が佐賀県出身であることと無関係ではあるまい。麺は細く、スープの粘度も低いが、細かな背脂によって麺とスープが絶妙に絡み合う。すべてが計算された完璧な構成だ。

 その設計に間違いと迷いがなければ、何十年経っても古さは感じさせない。香月のラーメンは40年経った今もまったく色褪せることなく、キラキラと輝いている。


らーめん香月 六本木店(1975)
東京都港区六本木3-10-11
都営地下鉄線・東京メトロ線「六本木」駅より徒歩3分

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